人事部に鳴り響く一本の電話。
いつものように受話器を上げると、そこから不可解な会話が始まった。
「退職代行XXのAと申します。おたくの社員のCさんですが、X月1日付で御社を退職します。本人から弊社に一任されているので、本人には家族含め一切連絡しないでください」
突然の出来事に呆然としながら、電話口の担当者の氏名と社名をもう一度確認してメモを取った。
その後、受話器を置いてから事実確認のため退職する社員の所属部署へ連絡してみた。
すると数日前から本人は会社に来ていないことが判明した。
そしてその2週間後、社員Cは退職することになった。
一度も会社に来ることなく・・・。
この記事では最近話題の退職代行について、人事担当者の視点から解説します。
退職代行ビジネスとはいったい何なのか!?
最近急増した退職代行業者。
我々、人事担当者を困惑させ、頭を悩ます存在。
彼らは一体何なのでしょうか!?
人事の視点から調べてみました!
退職代行業者が退職の意思表示を代行
退職代行は、退職代行業者や弁護士があなたに代わって退職の意思表示を代行してくれるサービスです。
基本的に、退職は意思表示をするだけで成立します。
意思表示の方法は、面談だけでなくメールや書面、電話でも成立します。
しかし時には上司や会社に退職を切り出しづらい場合もあるでしょう。
そんな時に、退職代行業者を使えば、あなたに代わって会社に連絡してくれます。
しかもあなたは一切、会社に連絡・接触する必要はありません。
ちなみに、弁護士であれば会社への交渉も担ってくれます。
しかし退職代行業者はあくまでもあなたの「使用人」として勤め先に退職の「意思表示」をあなたに代わって行うのです。
意思表示だけなら、本人から会社に連絡すればいいのに・・。
と、人事としては思うのですが、退職代行業者がこれだけ流行っているのには、それなりの理由があるのでしょう。
弁護士事務所の新たな収益源!?
弁護士事務所に勤める知人から聞いた話ですが、退職代行は弁護士事務所の新たな収益源になりつつあるそうです。
その背景には、この15年で弁護士が量産されている実態があります。
日本弁護士連合会が毎年発行する弁護士白書によれば、2004年に約2万人だった弁護士数が2019年には4万人に倍増!
かつては毎年200名程度の増加だったのが、現在では5倍の約1,000名もの弁護士が毎年誕生しています。
以前は高年収職業の代表格だった弁護士も、弁護士の増加により需要と供給のバランスが崩れ年収が激減しています。
最近では、弁護士年収の安い方だと年収400万円程度の方もいるそうです。
法廷の活躍が中心だった弁護士も、 離婚相談や、借入金の相談、など私たちの身近な法律相談をすることで収入を得るようになりました。
また、一時期、世間を賑わせた過払い金ビジネスも一服。
最近の弁護士事務所は、新たな収益源を探していたそうです。
そこで、昨今のブラック企業ブームにあやかって生まれたのが退職代行ビジネスというわけです。
退職代行の費用は、1件50,000円前後。
裁判や書類の手続きもほとんどなく、弁護士や退職代行会社が代理人として依頼者の会社に電話やメールで連絡するだけです。
コストがほとんどかからない、超高利益ビジネス。
それが退職代行の実態です。
退職代行は使うべきではない
結論から言います。
退職代行は使うべきではない。
人事担当者として、そして転職経験者として断言します。
退職代行を使うことは、デメリットが大きいからです。
費用がもったいない
何よりもコレが一番の理由です。
そもそも、会社はタダで辞められます。
お金を払って辞めるのは本当にもったいないです。
いま手元に5万円あれば、あなたは何をしますか?
退職代行業者に5万円払うよりも、5万円で美味しいごはんでも食べて、温泉にでも行ってリフレッシュする方がいいのではないでしょうか。
つながりが断たれる
退職代行を使うと、ほとんどの場合、あなたと今の勤め先との関係が完全に断絶されます。
本当にもったいないことです。
普通に円満退職していれば、同期や同僚、先輩、上司とのつながりが良好なまま辞めることができます。
もし仲の良い同期や同僚がいたら、退職後も仲良くできるはずです。
また、会社からの心象もよくありません。
広いようで狭いビジネスの世界です。
またどこでどんなご縁があるかもわかりません。
私も、もう縁がないだろうと思ってお別れした方と、数年たってから偶然、仕事で関わることがあります。
もし今後、あなたが転職してキャリアアップしていきたいなら、円満退職することが間違いなくおすすめです。
退職者にメリットが圧倒的に少ない退職代行
退職代行はあなたの代わりに退職の意思表示をしてくれるだけ。
本当にこれだけです。
あなたが思う以上に退職することは簡単なことです。
どれくらい簡単かというと、水道から水を飲むくらいの簡単さです。
もちろん、会社によって個々の退職事情があるでしょう。
しかし、会社は意思表示するだけで確実に辞められます。
法律でそう決まっているからです。
例えばあなたは、青信号で横断歩道を渡るのに、わざわざ5万円払うでしょうか?
まず払うことはないでしょう。
退職代行を利用することは、誰でも当たり前にできることのために、5万円を退職代行業者に支払っているようなものです。
退職代行を使わなくても100%退職できる
普段、人事部で仕事をしていて思うことがあります。
それは、社員に正しい退職のやり方が知られていないこと。
ごく普通の会社であれば、退職代行を使わなくても100%退職できます。
そして誰でも、いつでも会社を辞めることができることです。
退職は労働者の権利だからです。
退職希望日の2週間前に意思表示すれば退職できる!
法律上は、退職を希望する日の2週間前に退職の意思表示をすればよいことになっています。
会社をすぐにでも辞めたいと思ったら、「退職届」を出せば2週間後には辞められます。
ただし、2週間よりも短い期間で辞めてしまうと会社から損害賠償を請求される可能性が高くなるので注意しましょう。
また人事部としては、できれば2ヶ月前には退職の意思表示をしていただきたいです。
後任者を探すこともできますし、あなたの退職手続きも余裕を持って行うことができます。
会社によっては退職金の支給手続きもできますし、有給休暇もしっかり消化することができます。
何よりも余裕を持って退職することは、あなたにとってメリットが大きいのです。
可能な限り、前もって退職の意思表示をお願いします!
退職の意思表示は何でもOK!
いち人事担当者としては、できれば退職の意思表示は、きちんと上司に口頭で行って欲しいです。
ただし、どうしても面と向かって言いづらい場合もあるでしょう。
そんな場合は、手紙や電話やメールでもOKです。
ただし電話、メール、LINEの場合でも書面で「退職届」を出しておきましょう。
書面の提出は人事部宛に郵送でOKです。
書面を送っておけば、退職の意思表示の証拠になります。
もしどうしても連絡したくない、会社にも行きたくない場合は、郵送で「退職届」だけを人事部宛に送りましょう。
わざわざ退職代行業者を使わなくても、一通、手紙を送るだけ。
それだけで会社は辞められます。
また、すぐに会社を辞めたいなら「退職願」ではなく、「退職届」を出しましょう。
「退職願」はあくまでも「お願い」です。
「退職願」の場合、上司や人事部の確認や承認を得て退職となります。
また「退職願」の場合は人事部による退職の引き留めも行う場合もあります。
一方、「退職届」は明確な意思表示なので、会社側も完全な退職としてすぐに手続きを行います。
このように、人事部があるごく普通の会社であれば、一般的には「退職届」の提出で会社を辞めることができます。
退職理由は言わなくていい
意外と知られていないのですが、退職理由は言わなくてもOKです。
一身上の都合で、という理由で十分です。
そもそも私たち人事部も、最初から正直な退職理由を言ってくれるとは全く思っていません。
また私もそうでしたが、退職に明確な理由があることは稀です。
多くの場合、退職の原因は一つではありません。
様々な条件がいくつも重なって退職に至るのです。
私たち人事担当者としても、ウソの退職理由を伝えられるよりは、「一身上の都合で」という理由の方がありがたいです。
身の危険を感じるなら退職代行はアリ
しかし、時には本当に退職代行を使うべき場合もあるでしょう。
例えば上司などから、パワハラやセクハラを受けている場合。
そんな時は、あなたの心身が壊れる前に退職しましょう。
私もかつて、パワハラを受けて休職したことがあります。
休職中は、その会社を辞めるべきか非常に悩みました。
しかし最終的にはその会社を辞めて転職したことで、現在は幸せに働くことができています。
退職代行業者の前に、まずは人事へ相談!!
直属上司に切り出しづらいなら、まずは人事に相談しましょう。
人事部に現状を包み隠さず話して、対応を検討してもらいましょう。
大きな会社であれば、異動を検討してくれる場合もあるでしょう。
退職代行業者を使う前に、まずは心療内科へ行く
人事部に相談しても何もしてくれない。
時にはそんなこともあります。
会社の中で孤立してしまい相談相手もいない。
そんな時は社内の産業医や保健師を頼りましょう。
また、社内に頼れる人がいないなら心療内科の先生に相談するのもおすすめです。
私もパワハラを受けていた時を振り返ってみると、当時は正常な判断ができない状態になっていました。
このまま会社を辞められないのではないか、という恐怖。
会社を辞めてしまう自分はダメな人間同士なのではないかという不安。
心が疲れてしまっていました。
そんな時、勇気を振り絞って心療内科に行ってみました。
「あなたは、しばらく会社を休んでもいいでしょう」
担当医にそう告げられた時、心が少しほっとしました。
その後、医師から診断書を出してもらい、診断書のコピーを上司にメールでおくり、次の日から3か月間休職しました。
休職すると、徐々に心も元気を取り戻していきました。
そして会社を休んでゆっくり考えたおかげで、改めて会社を辞める決意ができました。
その時、会社を辞める連絡はメールで行いました。
人事部と産業カウンセラーの方が対応していただき、メールのやりとりだけで辞めることができました。
それでも退職を切り出せないなら・・・
退職代行業者を使うことだけが、退職の手段ではありません。
しかし身の危険を感じ、さらに本当に自分から退職を切り出すことができない人は退職代行業者を使ってもよいでしょう。
参考までに、最近話題の退職代行業者のリンクを載せておきます。
ただし、なるべく最終手段として使ってください。
本当に退職に悩んでいるなら、まずは人事に相談しましょう!!
私たち人事担当者も、あなたが退職代行業者を使うくらいなら、いつでも喜んで相談にのりたいと思っています!!
円満退職のススメ
私は今まで退職してきた会社で円満退職してきました。
ただし1社だけは円満ではなかったのですが(笑)
円満退職のお作法
立つ鳥跡を濁さず。
そしてあなたがいなくなった後、職場の上司や同僚が「やっぱりあなたがいてくれたら・・」と思ってくれること。
これこそが円満退職術の奥義です。
そして、円満退職にはコツがあります。
最低でも3か月前から準備する
円満退職のコツは、前もって準備することです。
退職の意思表示をする前から、徐々にフェードアウトするのがおすすめです。
まず初めにやるべきことは後任者を探すことです。
部署の後輩や同僚などに、さりげなく少しずつ仕事を引き継いでいきましょう。
私の知人の中には、退職の1年前から計画的に引継ぎを進めていたツワモノもいました。
余裕を持って引継ぎを行うことで、退職が楽になり、有休消化の期間を最大化することができます。
後任者がいれば、退職を引き留められる可能性も低くなるでしょう。
会社を辞める直前は、結局バタバタしてしまい有休を使いきれない場合があります。
そこで徐々に有休を取得するのがおすすめです。
半休を活用して、次の職場で必要となる知識の習得や人脈づくりのために様々なセミナーへの参加や資格取得の勉強に時間を使いましょう。
こうした有意義な有休の使い方は、きっと次の職場でのあなたの活躍を後押ししてくれるはずです。
あなたがいま働いている会社の中に、同僚なり先輩なり上司なり、これからもお付き合いしたいという人はいないでしょうか。
また、あなたの転職先での仕事を考えた時に、いまの会社で次の仕事にもつながりそうな方はいないでしょうか。
退職する前に、そういった方とランチやディナーなどで親交を深めておきましょう。
人脈は間違いなく、今後のあなたの活躍に有利になります。
最後に一番重要なポイントがコレです。
退職することが決まっていても、全力で仕事をしましょう。
ただしなかなかモチベーションが上がらない場合もあるので、全ての仕事を全力で行う必要はありません。
成果が出やすくて、目立ちやすい仕事に集中して取り組むのです。
会社も優秀な人材が退職してしまう・・、とあなたを高い評価で送りだしてくれるでしょう。
退職は自分らしい人生の一歩
私はこれまで3社を辞めてきました。
最初の会社を辞める時は、ものすごく勇気がいりました。
しかし2社、3社と会社を辞めるうちに会社を辞めることが楽になりました。
そして、会社に対する考え方が変わりました。
これまでは会社が自分の仕事の全てだと考えていました。
3回も会社を辞めたことで、いまでは会社はあくまでも私の仕事場の一部であり、仕事も人生の一部でしかないと思えるようになりました。
良い意味で、会社と自分との間に距離感をつくることができるようになったのです。
ひょっとすると、あなたも会社を辞めることにためらいを感じているかもしれません。
しかし、一度会社を辞めてみると、本当にスッキリします。
あなたが会社を辞めたいと思ったのには、少なからず何かしらの理由があるはずです。
あなたがもし、良く考えたうえで会社を辞めたいと思うのなら会社を辞めてもよいでしょう。
会社を辞めることは逃げではありません。
仕事をするいち社会人として、新たな環境を求める正当な一歩です。
そしてあなたは、その権利を手にしています。
その権利を使う自由がいま、あなたの手の中にあります。
会社を辞めることで、あなたが自分らしくいられるなら迷う必要はないでしょう。
あなたの新たな一歩を全力で応援します!!
コメントを残す